花が咲く頃にいた君と
初対面だろうと、それほど親しくなかろうと、その場その場で、言いたいと思えば言うし、やりたいと思えばやる。

そこに恐れなんて無い。

人の目なんて気にしないし、悪く言えばちょっと感情が欠落している。


あたしに頭をしばかれた彼は、肩をビクつかせ、恐る恐るこちらへ振り返った。


まるで小動物の様な反応に、加虐心煽られる。

だから怒ってもないのに、彼をじと目で見つめた。


「ご、ごめん。なんか笑うと失礼かと思って」


彼は、天然だった。



いや、そこは“笑ってないよ”と誤魔化す所だろ。もしくは、ほぼ面識の無いあたしに、頭をしばかれたことを怒るべきだろう。


「いや、うん、なんかごめん。あたしも貸してもらったのに頭しばいて…」

いまいち見えない彼の表情。

けど声は今まで聞いたどんな奴らよりも優しくて、思わず謝ってしまった。


「ううん。全然、大丈夫。ノートもらうね」


彼の染み1つ付いてないノートを丁寧に両手で返した。

受け取った彼の手は、白くて長くて骨張っていて、下手すりゃあたしより細い。


「どうかした?」

どうやら彼の手に、看取れてたらしいあたしへ、彼は首を傾げ問い掛けてくれた。

「ううん。綺麗な手だと思って」


だから、素直に答えた。

その途端、彼は体を震わせ、顔を真っ赤にさせた。

一瞬揺れたせいで、彼の前髪から、黒目がちな澄んだ瞳が一瞬顔を覗かせた。


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