花が咲く頃にいた君と
「あ、ありがと」

彼はどもりながらも、お礼をちゃんという。


そこは否定しないんだね。


「ピアノとかやってるから、指は昔から大切なんだ」


彼は手を握りしめて、あたしに笑いかけてくれた。

微かにその口角が上がっている。


「へ~。ピアノなんて、かっこいいね」

「かっこ良くなんてないよ」


髪から覗く白磁の肌が、紅く染まる。


「あたしなんて、鍵盤ハーモニカすら弾けないよ」

あたしは苦笑い気味に答えていた。


“こんな風”に他人と話すのは久しぶりだ。


「冬城さんなら、ピアノくらい簡単に弾けるよ。指先凄く器用だし」

そう言って彼は口角を上げた。多分、前髪に隠された瞳も優しげに細められてるに違いない。


だけど、

「へっ」


彼の表情なんて気にならない程度に、あたしは驚いていた。


「何であたしが手先器用なの知ってるの?」

あたしの率直な疑問に、彼は口をポカンと開いて、まさに“しまった”という表情をする。

そしてさっきまで赤かった顔を今度は青くしてしどろもどろに答え始めた。

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