花が咲く頃にいた君と
“十夜があたしを売った”

“一昨日それを聞かされて”

“昨日の朝、行方を眩ました”

“迎えに来たのは、燕尾服のお爺さんで”

“あたしを買ったのは、クラスメイトの東向日だった”



とりあえず、ありのままを下宮比さんに聞かせた。


下宮比さんは真剣な表情でそれを聞きていた。



“なんで売られたのかわからない”

“東向日は十夜はあたしを売ってないって、自分が拐ったって”

“理由はわかんない”

“追求すること、諦めさせられた”



だいたいのことを話て、あたしは押し黙った。


握り締めた拳が、やけに小さく見えた。




「大丈夫、心配いらない。お前はそのご主人様についてけ」


優しくはなかった。


どちらかといえば他人行儀な声色に、あたしが困惑した。


けど撫でられた手は、いつもより優しくて




今の下宮比さんはちぐはぐだった。




「今日で、お前はクビだ」



大切なモノが溢れ落ちてく。




けどそれはいつも現実を突き付けられてから知る。



それが“大事なモノ”だってこと。


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