花が咲く頃にいた君と
ひょろひょろのクセに、案外がっちりしてた。



甘い匂いは、汗ばんでても変わらない。



優しいココアとチョコレートの匂い。


全てを包み込むような、東向日にぴったり。



「外に出てたの!?」


何だか、力が抜けた。



「どこ行ってたの!?」

「どうしたの、このケガ?!」

「独りじゃ危ないだろ!!!」


あたしの心はイライラしてた。表面上は確かに。

けどそれは不安を隠す、あたしのプライド。



それが崩れた、簡単に。


東向日の声を聞いて

東向日の鼓動を感じて

東向日の腕の包まれて



力が抜けて、あたしは安心した。


「冬城さん!!」

「聞いてる、今だけ…」

「冬城さん…、」


見上げた東向日の顔、涙が出てきた。



あたし、黙ってすがった。


プライドも羞恥心も捨てて。


背中に腕を回して

力任せに顔を胸に埋めた。



もう東向日の優しさの中に、溶けちゃえばいい。


そう思った。



東向日の言葉。

それだけが今のあたしに響いていた。



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