花が咲く頃にいた君と
東向日はずっとあたしの背中を、さすってくれていた。


あたしはそれに甘えて、猫のように擦り寄った。


「もう、大丈夫だから」

「大丈夫、大丈夫」


何度も降ってくる




“大丈夫”


あたしに何があって、こうなったのかなんて、知らないくせに


その“大丈夫”はあたしをやけに安心させた。



「ココアとチョコレートがあるよ。おいで」


泣き疲れて、目を擦りながら頷いた。




昨日同様、ベッドを背もたれにして隣り合わせに座った。


昨日と違うのは、距離。



肩が触れるくらいに近くて、わざと触れていた。


差し出されたマグカップ

熱いにも関わらず握り締めた。



「今日みたいに、もう突然居なくならないで」

「ごめんなさい」

「誘拐されたのかと思って焦った」

「ごめんなさい」

「心配し過ぎて死ぬかと思った」

「…っ」

「僕には君が必要なんだ」


止まっていたはずの涙がまた流れ出す。




みんなあたしが要らなくなって捨てるのに


東向日だけは、心配してくれる。


あたしを必要としてくれる。


あたしを傍に置いてくれる。



あたしには東向日しか、もういない。


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