花が咲く頃にいた君と
朝は食パンとイチゴジャム、それにオレンジジュース。


いつからかそれが決まりで、朝食のそれが大好物だった。



なのに今、目の前に並ぶのは、そんな質素なものより遥かに豪華な朝食。



「和食…ですか」

「僕、朝は和食派なんだよね」



あたしは買われた以上、文句も言えずお箸を持った。



けどなかなか食が進まない。


むしろ今食べたモノが戻ってきそう。



箸を持っては、口を押さえ、箸を持っては、口を押さえ、これを何度も繰り返した。



あたしの様子なんてまるで気にしてないみたいに、東向日はパクパクと食べていく。



「ご、めん。東向日、あたし食べれない」


戻ってきそうな朝食を、何とか押さえて席を立った。



「大丈夫、無理しなくていいから。けど僕から離れないで」


東向日は箸を持ったまま、あたしの手を掴んだ。


見えない瞳、なのに真剣さを肌で感じた。


あたしの心を、震える。


「東向日、パンが食べたい。薄い食パンにイチゴジャムがのったやつ」



顔は赤くなってないだろうか。


隠す様に俯いて、もう一度席についた。



「そっかぁ、ごめんね。気付かなかった!冬城さんは、パン派なんだね

初川さん、用意できますか?」

「大丈夫です」



初川さんの言葉の後、数分もしないうちにそれは出てきた。


こんがり焼けた薄い食パン、イチゴジャム。



「初川さん、オレンジジュースありますか?」



初めて自分から初川さんに、話しかけてみた。


一瞬見開かれた瞳、優しげに細めて

初川さんは頷いた。


「ございますよ」



透明なコップに注がれたオレンジジュース。


揺れて波立ち、収まった。



あたしの居場所が、少しづつ出来てきた。



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