花が咲く頃にいた君と
「保泉、ハサミ持ってる?」


保泉は文庫本から、目を離すことなくあたしにハサミを差し出した。


「サンキュー」



明実はあたしをちらりと見て、雑誌に視線を戻し、次の瞬間目を丸くしてあたしを凝視した。


日高なんて、あたしが教室へ入って来たときから、呆気にとられたままだ。



あたしはさっき切られた髪を、整える様にハサミを動かした。



みんなの目のある教室で。



「ちょっ!!何やってんだよ!」


席を立ち上がったのは明実だった。


それにつられる様に、周りがざわつきだした。



「さっき髪切ったから、整えてる」

「いやいやいやいやいや!学校で髪切るとか、あきらかおかしいだろ!」

「けど事実だし、ウソはつけんな」


まるで他人事の様に、呟くあたし。

明実は呆れたようにため息をついた。



「聞いたあたしが悪かった。あんたは突拍子もないことをやる人間だったな」


どこか同情したような含み。



「そんなことない。あたしは“普通”」

「普通な人間は、“普通”なんていわねぇよ

まぁ“容姿”だけなら平々凡々なんだけどな」



明実はハサミを取り上げれと、あたしの髪を切り出した。


「しゃーなし、やってやる」


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