天狗の嫁入り
籠に置き戻された徳利を彗は手に取り、手酌で淡い桃色の液体を注いだ。
「桜に酌をしてもらうなんて、出来ねぇよ。」
「え…」
「今日、初めて顔を合わせたのに、んな事させらんないだろ。もてなすのは俺の方なんだから。」
「だったら、さっきの人に…」
「女に酌をしてもらった事はない。してもらうとすれば桜だけだ。」

さらりと殺し文句を言った彗に固まってしまった桜だった。

返す言葉も見つからず、御膳に並べられた色とりどりの食事を口に運ぶことしか出来なかった。

桜にとっては緊張だけの時間だった食事が終わり、集会があるからとやっと彗から開放された。

「桜ちゃん。」
「燐さん。」
「お湯の準備が出来てるから早く入って来ちゃいなさい。私は先に入らせてもらったから。」
「はい。」
「私、しばらく屋敷に滞在するから困ったことがあれば何でも言ってね。」

濡れた髪を色っぽく結った燐が風呂場まで案内してくれた。

深い息を吐いて、湯舟に浸かると緊張が緩むようだった。

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