天狗の嫁入り
のぼせる前に風呂から上がった桜は用意されていた浴衣に腕を通した。

燐と通った道を思いだしながら進むと、さっき食事を運んでくれた美女と遭遇した。

「こんばんは。」
桜はただ挨拶をしただけだった。
しかし、次の瞬間、火も灯っていな薄暗い部屋に桜は突き飛ばされ尻餅をついた。

「貴女が水神の娘と聞いたけど?」
「え、えぇ。」
「水神の娘だからって何様のつもり!?彗様にお酌ですってっ!?私が1度もさせてもらったことがないのにっ!!」
声を張り上げる美女とその周りに纏わり付く殺気に桜は声を上げることも出来なかった。

「貴女の血は永遠の美貌を与えてくれるらしいわ。最後まで啜れば貴女の持つ全てを貰えるに違いないわ。そしたら、きっと、いいえ、絶対、彗様は私に振り向いてくださるわ。」
バサッと言う音と共に美女の背中に黒々とした羽が現れ、目も血の様に赤さが増した。

危険を察知して部屋を出ようと襖に手を掛ける前で鋭い物で全身を裂かれた。
切り傷に血が滲み、桜は苦痛の色を浮かべた。

「ふふ、安心していいわ。痛みも感じないうちに仕留めてあげるから。」

そう言われて大人しく殺されるのを待つ人間がいるだろうか。
例え、生まれて初めて自分が妖の血を引いていて誕生日に親から引き離された見ず知らずの世界に来た桜であろうと。

風を切るような音が迫り、桜は身を翻した。
「っ…」
「無駄によけるから、痛いのよ。次は避けちゃだめよ?それ以上、血を無駄にされちゃ困るもの。」
美女が腕を振り上げ、桜が固く目を閉じた瞬間、 聞き覚えのある、だけども低く地を這うような冷たい声が聞こえた。
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