天狗の嫁入り
ひやりとした感覚に桜は身じろぎ、目を覚ました。
「ん…」

焦点は定まらなかったが自分が寝ているところを誰かが頬杖をつきながら見ていると言うことは分かった。

考えてみれば、自分が最初寝かされていた部屋の天井ではないことに気付いた。

はっとして起き上がれば重力に負け、また枕に頭が戻ってしまった。

「急に起き上がるからだ。」
「ほ、彗さんっ。」
「悪いな、早く気付けなくて。」
「あ、いえ。彗さんのせいではないですから。それより、何で隣に寝てるんですかっ。」
「俺の寝台だからだが?」
「わ、私、部屋に戻りますっ。」
「起き上がれもしない奴が何を言ってる。」
「う…」
「傷は塞いだが、だいぶ出血していた。大人しく寝とけ。」
確かに切られたはずの片腕を目の前にかざしてみたはずだった。
しかし、切り傷も血の跡もない。
片方の腕も同じだった。 深く切られた肩も痛みはない。
着物も着ていたものと違って…
「安心しろ、着替えさせたのは姉貴だ。」
「何で、分かったの…」
「なんとなく。それに俺が着替えさせたなんて誤解はして欲しくないからな。」
「そう。でも、傷は?」
「舐めれば塞がる。」
「凄いのね、妖って。」
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