天狗の嫁入り
そんな張り詰めた話し合いなど知るはずのない桜は蓮朱に不安気な表情で話し掛けていた。

「遅いな、慧さん…。屋敷を案内してくれるって言ったのに。どこにいるんだろうね。」

その言葉を聞いた蓮朱がバサリと寝台を飛び立ち、襖の前に降り立った。

「慧さんのトコに連れてってくれるの?」

そう桜が問えば、そうだと言わんばかりに蓮朱が鳴いた。

入り組んだ廊下を蓮朱は知り尽くしてると言わんばかりに優雅に羽根を広げ飛び、桜が追いつくのを待ち、また飛ぶ。

どのくらい導かれる様に歩いただろうか。
桜の前に、一本の離れに続く廊下が現れた。

「この廊下の先?」
「カァッ」
「ありがとう、蓮朱。疲れたでしょ?私に合わせて飛ぶの。」

桜は床に膝を付け、蓮朱を抱え上げた。
蓮朱は目を見開き驚いた様だったが、暴れて桜を傷付けるのはいたたまれないと大人しくその腕に収まった。

桜が蓮朱を連れて、離れに来ているなど知らない慧をはじめとする臣下達は数秒で開くであろう襖に気を集中させた。
< 18 / 23 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop