天狗の嫁入り
「私ね、桜ちゃんのお母様と知り合いなのよ。」
「え?」
「私がまだ幼い頃、よく遊んでもらったの。18年前、言われたの。18年後、娘が1人でこの世界に来ることになるから力になって欲しいって。」
部屋にある桐の箪笥からいくつもの着物を出しながら燐は桜に優しく微笑んだ。
「18歳になった貴方を天狗の嫁にと桜ちゃんの母親に言ったのは紛れもなく私達の先代の当主。そして父君よ。けれどね、桜ちゃんには好きな人と結ばれて欲しいの。」
「燐さん・・・」
「弟の彗と結ばれて欲しいのも事実よ。あの子は優しい子だから桜ちゃんの血は流させないと思うし。」
「それって・・・」
「妖の世界では殺し合いなんて日常なの。この辺一帯に住むのは上級の妖だけだからそんな事はないんだけれど、下の位の妖はお構いなしに襲ってくるわ。桜ちゃんの力欲しさにね。」
「そんな・・・」
「18歳が解禁日なのよ。」
「え?」
「正気も失う甘い甘美な香りが放たれるね。」
「そんなの分からないですけど・・・」
「そうね、妖の私達にとってはとてつもなく誘惑なものなのよ。あちらの世界にいても同じこと。不意の事故にあって命を落とすことになってたわ。」
「不意の事故って・・・妖によっての事故ってことですか?」
「えぇ。はいっ、出来上がり。可愛いわ~」
ポンっと帯の背を叩かれた桜は鏡に映る着物姿の自分に嬉しそうに微笑んだ。
着物こそ黒いが綺麗に施された色とりどりの蝶の刺繍。
ピンクの帯も可愛らしい。
蝶の髪飾りを飾ってもらい燐にお礼を述べた。
すると、着物を用意したのは弟である彗だからお礼は弟にと背を押されて
彗の部屋の前で襖を開けることも出来ず右往左往している現在に至る。
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