抵抗
「泊まるとこあるんか。」男はチラリと和己の下半身をみながらきいた。「ないんです」と和己は男に哀れみを感じさせるようにいった。「そしたら、決まりやな。汚い部屋やけど今晩泊まってええで。」男は和己を安心させるように仕向けていた。

ブラブラと商店街を歩いていると、店の奥の時計の針がもう七時をさしていた。男は二、三軒の食堂をみて、「腹ごしらえするか。」と中華料理店へ和己を誘った。和己は男に背中を押されるようにして店内へ入った。店内はカウンターとテーブル席が四つある。

二人は入り口に近いテーブルに座った。男はこの店に初回らしい。キョロキョロと壁のメニューをみまわしている。キツネのような細い中年女性が水を二つ運んできた。「まず、ビールとチャーシュウをもらうわ。」男はそういって女性を奥に戻すと、和己にメニューを渡した。和己は遠慮がちにしていた。「ラーメン」と和己はか細い声で注文した。

「あかん、あかん。もっとええもんしい。おばちゃん、チャンポンにしたって。それも玉子二つ入れてな。」と奥からやってこようとする女性に声をかけた。女性はカウンターで鍋を振っている二人の男性たちに声をかけた。「特製チャンポン一つ。」

やがてテーブルに皿が並んだ。空のコップが二つとビールが二本並んでいる。「どうや」と男がビールを注ごうとした。「未成年やから。」「なにを眠たいこというねん。そんなん関係あれへん。家をでたら一人前や。一人前の男は酒をたしなむもんやで。」男は屁理屈のようなもので和己を納得させた。二人は乾杯して、何度もコップを空にした。

男は尻ポケットから分厚い二つ折りの財布を取り出して勘定を済ませた。しかし釣り銭はキチンと受け取り、ズボンのポケットヘ抜け目なく仕舞い込んでいた。<おっさん、博打にでも勝ったのかも知れん。>と和己は男の財布を持つ手をみて推理していた。

男は酒癖があった。それも梯子酒が好きで、「もう一軒、あと一軒だけ。」と和己を誘っては飲ませた。それもビールだけではなく、白い韓国の酒もすすめて飲ませた。和己は足元もおぼつかないほど酩酊し、男に抱かれるようにして足をフラフラさせながら歩んだ。
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