抵抗
その夜は二階の客間に一人で寝かされた。トイレは廊下の突き当たりにあった。夜中に目覚めた。トイレを我慢する。三十分、一時間、ついに我慢は限界となる。廊下にでて、豆電気のみえるトイレのドアをあけた。そこには、糞の最中の若い組員がしゃがんでいた。和己は言葉を失った。声をかけて、謝ることも出来なかった。そして部屋に飛びこんだ。
やがて水音が聞こえてきた。一、二分待った。そして再びトイレに行った。小用を足した<あいつ。怒ってるやろな。まともにみてしもうたもんな。>といままで、この場所でしゃがんでいた男のことを思い出した。

和己は寝間に入ると、あれこれと考えた。会長と呼ばれる老人の世話になったこと。世話になった上に札数枚をうけとったこと。一宿一飯の恩義を受けたこと。などを考え込むと<迂闊なことは出来んぞ。>と安易な逃走を戸惑うのであった。

「やーこうは恐いちゅうからな。おっさんに吉野の場所と名字を教えてしもうたしな。これでは正体はバレバレやな。これからは、注意せんとあかんわ。」と独り言をいった。明け方になって、ようやくウトウトとし、浅い眠りを得た。

客室のドアがノックされた。「客人。起きてまっか。朝飯の用意が出来てます。」と若い衆が外から声をかけている。和己は返事をして、服装を整えた。階下に行くと、台所には二人の黒服が座り、一人が立って動いていた。和己は一瞬にして、立っている男こそ、昨夜トイレで恥ずかしいところを見せた奴であると悟った。

立っている男も和己のことを同時に思ったのか、両者の視線が絡み合った。「おう、きたか。早くここへ座り。みんなに紹介するさかいな。」会長と呼ばれる老人は昨日よりも老けた感じがする。それは和服を着ているせいかも知れなかった。

金剛組は会長夫婦、住み込みの若い衆三人の五人暮らしであること。和己が加われば、総勢六人となる。朝は七時が朝食で、昼は銘々が勝手に自腹。夕食も七時と決まっていた。食事当番は、入組して半年未満のC組員がしている。買い出しも近くのスーパーへ行く。
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