抵抗
女将は待ってましたとばかり、次の仕事を和己に与えた。組員Cは和己が金を持ったまま逃亡しないようにと、監視役についてきた。やってきたのは、金剛組から歩いて五分ほどの道路際にあるスーパー玉川である。黄色地に朱色文字の看板が青空に目立っていた。

スーパーの前では黄色い買い物籠からレジ袋へ自分で入れる客でごった返していた。店頭には、広告の安売り野菜が山積みになっている。入り口のところで、だらしなく寝ている者がある。警備員がやってきて、酔っぱらいを立たせる。しかし腰が抜けているらしい。
「こんなアホ。」と組員Cが酔っぱらいの背中を足蹴にした。男はギャッと声をだすと、飛び上がった。「ほれ。みてみい。こんなことや。」と組員Cは警備員を指さして笑ったそのとき、レジの女性が組員Cに気づいてニヤッとした。その女性は他のレジ係とは違い派手な顔だちと化粧で、三角巾と上っ張りを脱げは、ホステスと紹介してもよかった。

二人は黄色い買い物籠を持ち、野菜売り場から肉売り場へと用件を済ませながら、まわった。このスーパーは底辺の者をターゲットにしていて、格安を売りにしている。品物は三流であるが、値段的には十分納得が出来た。

組員Cは狙ったようにして、派手な女性のレジに並んだ。チラチラと女性が組員Cの存在を確認している。組員Cの口許はゆるみ、だらしのない顔つきになっている。和己は二人が男女の関係にあることなど、毛ほども知らなかった。

「こらあ、箸を入れんかいな。」と隣のレジの客が大声で男のレジ係を威嚇した。レジ係は外国人らしい。「わかってんのか。箸ゆうたら、箸を入れるんじゃ、このボケ。」と作業服をきた、いかつい感じの男が続いて吠えた。どうやら、箸を余分に欲しい。というのが、この男の要求らしい。レジ係は店長から一つの弁当につき箸一本と教育されていた。
組員Cは春男に「勘定しとけ。」といい残すと、隣のレジに向かった。そして作業服姿の男の胸ぐらを一気に掴んだ。「おっさん。なにをやかましいことぬかしとんねん。ゴチャゴチャしたら、他のお客さんに迷惑なんじゃ。」刹那、後ろに並ぶ者が相槌を入れた。

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