抵抗
スーパー玉川の店長は組員Cの働きをみて満足げであった。<なかなかやりおる。払ってる顧問料の分は働いて貰わんとな。金剛組の傘下から警備員も大勢雇ってるしな。まあ、金剛に任せておいたら、万引きも上手に捕まえるわ。>と鼻を鳴らしてニヤッとした。

金剛組は多角経営である。傘下には警備会社、建設会社、介護保険などの事務所が多数あって、それぞれが独立採算制とのことである。金剛組は表向きは小さな所帯のように振る舞っているが、京都老舗のように、密かな独特の隠れ資産を持っていた。

スーパー玉川の警備員は、全員が西成警察署のオールド・ボーイである。<こいつは、怪しい。>と感じると、商品陳列棚に隠れて、その動きを監視する。万引き犯が犯罪行為をすると鼻がピクンとなって、その後を密かに着ける。万引きが改心してレジを通せばそれまでのこと。悪意を持ってレジを通らなければ、店を一歩でた歩道で捕まえてしまう。

元警察官の警備員は万引き犯の腰をベルトごとムンズと捕まえる。二人で一組の警備体制を採用しているので、二人目の警備員はすぐに追いついてくる。こうして、店の裏側の階段をのぼらせて、事務所へ連行する。多くの犯人は、盗んだ分の代金を持っているので、「出来心犯」として軽微な取り調べをして、店から放逐する。

しかし中には猛者の犯人もいる。西成という土地柄もあり、短刀やナイフを隠し持っている者も多いので警備員は、腹と背中に分厚い防刃ベストを着けている。作業服姿の者は暴れるぐらいで、それほど恐ろしくはない。しかし派手な服装の輩は用心が必要である。

輩と呼ばれる愚連隊のような連中は、覚醒剤中毒が多く、昼間からラリッている。短刀をひらめかしたり、場合によっては切りつけてくる。警備員も命懸けの仕事である。

「驚いたか。」組員Cは和己をかえりみていった。和己は黙って笑っていた。「腹が減ったやろ。これ食ってもええぞ。」組員Cは魚肉ソーセージを和己に手渡した。そして、自販機でビールを買うと、歩道にしゃがみこんで飲んだ。「お前も一本飲め。」組員Cはそう命令すると、自販機のほうを指さして、和己に圧力を示した。
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