抵抗
「兄貴。あきませんわ。目がまわってきました。」和己はそういうと、道端にへたりこみ尻餅をついて座った。「なんやねん。だらしないぞ。そんなんやったら、おまえの歓迎会なんか出来んぞ。」組員Cはそういうと、空っぽのビールをまたもや傾けて飲んだ。

「なんやのん、この子は。ヘロヘロになってるやないの。辻。おまえ酒飲ましたやろ。」女将は般若のようになって、大口を開けた。「酒とちゃいます。ビールですわ。」と組員辻はレジ袋を台所に持っていく際に答えた。

「辻。台所はもうええから。枕だけでも渡してやりいな。」女将はそういうと、尻を向けて流し台の野菜を洗った。辻は女将の尻を次の間から盗むようにして眺めながら、「ハイハイ。」と返事した。

ドタドタと階段をおりる音がしてきた。組員Bと組員Aである。「女将さん。ほんだら、行ってきまっさ。」と組員Bが暖簾から顔をだしていった。女将は振り返ると、「ああ、気いつけてな。」と組員Bの足元を見送った。

和己は座敷に寝かされていた。<でかけはるねんな。いまから、何処へ行くんやろ。辻の兄貴は、シノギやいうてたな。>とでかけた二人のことを思っていた。

午後二時をまわったころ、髪に櫛を通した組員辻が、盗人のように靴を持ち、外へでようとしていた。「兄貴。」和己は足元をみて、声をかけた。辻は顔をみせると、指を口に立てた。「内緒にしとけ。ええな、一時間か二時間で帰ってくるさかいな。」

女将は居間でテレビをみていた。辻のでかけることを気づいているらしい。<くそボケ。変態のアホ。また、助平な女のとこへ行きよるな。>と思い、舌打ちした。「ほんまに、あの癖だけは困ったもんやで。」と独り言をテレビに向かってつぶやいた。

組員辻の行き先は、スーパー玉川のレジ係のアパートである。辻がアパートの前に立ち止まったとき、午前中の勤めを終えた女が笑いながら自転車で近寄ってきていた。

< 27 / 28 >

この作品をシェア

pagetop