抵抗
父親が交通事故で死亡したとき、和己は十歳だった。伯父は兄弟を無理やり押し込めると車を発車させた。母方祖父母の制止を振り払って車を強引に走らせた。その発車は、親戚関係の破綻をにおわすほど乱暴なものであった。以来、伯父は母方との接触を自らは決してしてこなかった。

和己は車中で雅美の肩を抱いた。不安がる雅美を「心配いらんからな。」とはげました。「兄ちゃん、何処へ行くねんやろ。」「おっちゃんとこや。何も心配ないで。」といい、少しずつ寂しい風景になる車窓をみつめていた。

その夜は本田家の座敷に客として扱われて、フカフカの寝具で二人は寝た。夜中に雅美が起き出して、「便所」と泣きだした。和己は便所の位置を思いだすことができず、右往左往した。雅美が泣きだすので、思い余ってガラス戸を開けて中庭に小便させた。

翌朝、もう客扱いではなかった。焼いたまま放置され、カチンカチンに反り返ったトーストが兄弟の席に押し出された。和己はトーストをちぎり、ホットミルクに浸して食べようとした。「こらこら、汚い真似をせんとき。そんな食べ方を何処でならったのや。」とおばさんの智子が、目を三角にして睨み付けるようにしていった。

「そんないいかたせんとき。この子に罪はあれへん。それはそこの家庭の問題やで。うちで生活したら、自然とそんな癖もなおるもんや。」祖母照江はそういうと、兄弟の前で入れ歯をはめてトーストにかぶりついた。

遅れてテーブルについた伯父正明は、二人をチラッとみて、「どうや、よう寝れたか。」ときいてきた。二人は恐縮して、同時に返事した。正明はそれをきいて、グフグフグフと濁った笑いをした。「これな、わしの娘や。」と二人に対して上から目線で紹介した。
いとこの真理はニコリともせず、取り澄ました顔で、とうとう二人に声をかけなかった。
このとき、和己は真理が自分よりも四つ年上であることを知った。<くそ生意気な女や。こんなアホは、いつか、どないかしてこましたる。>と思い、握った拳を隠していた。
                  
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