抵抗
和己らは伯父のやりかたで一方的に押し切られた。住まいは中庭のプレハブ住宅である。食事は本宅の台所で家族が揃って食べる。兄弟は木工所での手伝いも命じられた。小学校は駅の近くにあった。兄弟は徒歩で通う。

和己らが、やっと落ちついたころだった。その夜、伯父は上機嫌だった。昼間、議員の関係で嬉しいことが起こったらしい。伯父は目の下を真っ赤にして、「どうや、もう慣れたんか。」と和己にきいた。和己は逆らっては損と算段し、「はい。」と短く答える。

「早く慣れることや。あんな都会におったら、ろくな者にならん。わかってるか。」伯父は説教魔の様子をみせている。次に伯父が口にするのは、いつも和己らの母親の悪口である。このときもそうだった。「あのアホ。」と伯父は母親のことを思いだすと、ウイスキーのグラスを空にした。

和己は身がすくんだ。ジワリジワリと畳から移動する。「わかってんのか。」と伯父は目をすえて大声になった。台所の洗い場には、智子と真理が並んで作業をしている。二人は背中で和己らが叱られるのをきいている様子だった。

「あのアホ」伯父は母親の悪口をいうと、朱色に染まった目を兄弟に向けた。和己は、<これは危うい。迫ってきよる。>と伯父の目に危険を感じた。「もうやめとき。」と太い声が部屋に響いた。照江が入ってきて、伯父の前に立った。「あんたら。もう向こうへ行き。」と二人を追っ払った。そして、「飲んだらこれや。」と伯父の酒癖を攻めた。

和己らは脱兎のように逃げた。サンダルを転がしてしまう。片方の足からサンダルが外れてしまう。兄弟は足の裏を黒くしながら、自分たちのねぐらへ向かって飛ぶように走った
「綺麗に洗え。」と和己は雅美の足の洗い方を注意した。「ほれ。」とタオルを渡した。二人は足を洗って、智子から叱責されない算段をする。和己はテレビの前にきてスイッチを入れる。これから数時間は二人だけの娯楽の時間である。「そやけど、おっさん今日も酔っぱらいよったな。」「ほんまになあ。」と雅美は和己のほうをみて返事をした。
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