抵抗
「ほんでなあ、まだ続きがあるんや。」番頭は腰を浮かせる和己の肩をおさえた。和己はこそばい尻の穴を再び椅子につけた。「まあききや。組織の奴らは恐ろしいぞ。医者と結託しとるんや。」「結託て。」和己はきいたことのない言葉の意味をきいた。

番頭がいうには、浮浪者の死体は診療所でバラバラにされること。バラバラにされた肉片はゴミ袋の中へ詰め込まれること。産業廃棄物のゴミとして特別の業者が持ち去ること。特殊ゴミなので、一般人が中身を偶然みることもないこと。などを身振り手振りをまじえて和己に語ってきかせた。

昼休みの時間はアッという間に過ぎ去った。番頭は立ち上がり、紺の前掛けについた埃をパシパシと払った。和己も番頭の真似をして、酒屋から歳暮にもらった前掛けのゴミを手で払った。職場の定位置に戻ったとき、番頭の腰巾着の若い衆が近寄ってきた。

「なんの話しとったんや。えらい、面白そうやったぞ。」若い衆は、監視していることを匂わせていった。「なんも、ない。」と和己は嫌いな男にはねつけるように答えた。なおも食い下がってきた。和己はまたも払って、「なにもないがな。」とやりかえした

若い衆は力押しもできず、顔に不満をあらわにすると、チョッと大きく舌打ちをした。和己は若い衆の不満気な感じの後ろ姿をみおくった。作業に没頭した。大きな機械の音がひびいて、邪念は吹っ飛んだ。

午後四時には機械の音がとめられた。残り一時間をかけて後片付けをする。和己は削った木の粉の山のようになったのを、箒とちりとりで片づける。機械の刃やハンドルにこびりついた木の粉をブラシを使って、綺麗に掃き清める。

やがて勤めも終わった。大人たちは、冷や酒やビールを求めて、駅前の隠れ酒屋へ向かう子供の和己は、おとなしく弟の待つ離れの家へ戻る。家の前では、雅美が出迎える。和己は外の足洗い場へ行き、まず顔を洗う。続いて手を洗う、最後に足を洗った。すると、後ろには雅美が待ち構えていて、タオルを肩ごしに差し出した。

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