抵抗
その夜、和己は弱い気持ちを切り換えようとしていた。「兄ちゃん、番頭さんからきいたやろ、飛田の首切り地蔵のこと。」「おまえもきいてたんか。」「そうや、昼間にぎり飯をもらいに行って、そのまま座ってきいてたんや。」
「西成のあいりん地区は恐ろしいらしいで。人間をバラバラにして捨てるらしい。」と雅美は番頭からきいたことを和己にいった。「そんなん、あれへん。番頭さんは、おれを恐がらせるためにいうたんや。」「ええー、そしたら、番頭さんは知ってるんか。」「いいやなにも知らん。おれは家出のことは誰にも話してないぞ。おまえだけや。」
和己は雅美の耳が赤くなったのをみて、感じ取った。「おまえ、いらんこと喋ったな。」和己の不信は的中していた。雅美はこらえきれなくなって、番頭に兄の家出計画を喋っていた。「アホめが、なんでも調子に乗って喋りやがる。」と和己は舌打ちしながら、雅美の頭を平手で叩いた。
番頭に知られたら、伯父の耳にはすでに入っていると知るべきである。伯父にきかれたらその家族全員が知ったということである。「そうか、それで最近、おれになにか妙に親切なんやな。」と和己はテレビのほうをみながら、そうつぶやいた。
<これで番頭の作り話ということがわかった。人間をバラバラにする医者がおるかいな。そんな恐ろしい場所はあれへんもんや。>と和己は番頭の語ったことを全部否定した。
和己は家出の予行演習を頭の中でした。まず駅に行き、始発の阿倍野橋行きに飛び乗る。始発の時間帯には、知り合いは一人も乗り込むことはない。野球帽をかぶって、長袖の作業服を着込んだら、大人にみえる。現金の入ったレジ袋は腹巻にしておくこと。リュックには下着の着替えしか入れないこと。などを考えた。
そして明日はいよいよ決行の朝を迎える。布団に入ったが寝つかれなかった。「雅美。悪かったの。もう、こうなったら、しゃーない。おれはお前にも行き先はいわんからな。」「兄ちゃん。」「ええか、お前は絶対にここから出たらあかんぞ、ええな。誓えよ。」
「西成のあいりん地区は恐ろしいらしいで。人間をバラバラにして捨てるらしい。」と雅美は番頭からきいたことを和己にいった。「そんなん、あれへん。番頭さんは、おれを恐がらせるためにいうたんや。」「ええー、そしたら、番頭さんは知ってるんか。」「いいやなにも知らん。おれは家出のことは誰にも話してないぞ。おまえだけや。」
和己は雅美の耳が赤くなったのをみて、感じ取った。「おまえ、いらんこと喋ったな。」和己の不信は的中していた。雅美はこらえきれなくなって、番頭に兄の家出計画を喋っていた。「アホめが、なんでも調子に乗って喋りやがる。」と和己は舌打ちしながら、雅美の頭を平手で叩いた。
番頭に知られたら、伯父の耳にはすでに入っていると知るべきである。伯父にきかれたらその家族全員が知ったということである。「そうか、それで最近、おれになにか妙に親切なんやな。」と和己はテレビのほうをみながら、そうつぶやいた。
<これで番頭の作り話ということがわかった。人間をバラバラにする医者がおるかいな。そんな恐ろしい場所はあれへんもんや。>と和己は番頭の語ったことを全部否定した。
和己は家出の予行演習を頭の中でした。まず駅に行き、始発の阿倍野橋行きに飛び乗る。始発の時間帯には、知り合いは一人も乗り込むことはない。野球帽をかぶって、長袖の作業服を着込んだら、大人にみえる。現金の入ったレジ袋は腹巻にしておくこと。リュックには下着の着替えしか入れないこと。などを考えた。
そして明日はいよいよ決行の朝を迎える。布団に入ったが寝つかれなかった。「雅美。悪かったの。もう、こうなったら、しゃーない。おれはお前にも行き先はいわんからな。」「兄ちゃん。」「ええか、お前は絶対にここから出たらあかんぞ、ええな。誓えよ。」