雪に消えたクリスマス
入院期間は一ヶ月から半年くらいかな? 
 その知らせを聞いたウララは、目に涙を溜めて俺の見舞いにくる。
 俺の大好きな、少し酸っぱいリンゴを手土産に…。
 ウララ…。
 俺は背中にある筈の荷物を、少しだけ動く手で確かめた。
 しかし、跳ねられた時の衝撃でどこかに放り投げられたのか、バッグが俺の背中にない。
 黒いバッグの中には、ウララに渡す大切なモノが入っている…。
 俺は、必死に体を動かそうとするが、動くのは、僅かに手と、首が左右に振れるだけたった。
 アレを、ウララに届けなくちゃいけないのに…体が言う事を聞いてくれない…。
 アレを見せれば、きっとウララは微笑んでくれる。
 そうすれば、あの日のケンカも、きっと無かった事にできる…。
 きっかけは、ささいな口論…売り言葉に買い言葉で、俺がウララを泣かせてしまった。
 次の日、ウララから連絡がなかった…。
 俺は、よくあるケンカだとタカをくくっていた。
 今日連絡がなくても、明日になったら、ウララの方から泣いて電話がくる。
 そう、信じていた…。
 しかし、待てど暮らせどウララからの連絡はなく、とうとうあの日がやってきたのだ。 俺とウララが、付き合い始めた記念の日…12月25日が…。
 そして…俺は事故にあった………。
「…創真君?…創真君………何か思いだしたんですか?」
 鏡の向こうで、玲が心配そうな顔つきで俺の顔を覗き込んでいる。
 気がつくと、俺はさっき入った部屋の中に座っていた。
 さっきまで降っていた雪も、冷たい風も、あの丘も、何もかもが幻だったのか…?
 それが、幻ではない事を、俺は知っていた。
 あれは、俺が体験した真実の映像だ。
 俺は………。
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