雪に消えたクリスマス
「でも安心してください。時々は、僕が創真君に話しかけてあげますから寂しくないですよ。僕が鏡に向かえば、そこには創真君がいます」
 玲はそう言うと、今度は冗談っぽく笑って見せた。
「よせよ。お前とウララのノロケ話なんて聞きたかねぇよ…。まったく…ウララの事、泣かしたら化けてでてやるからな!」
 俺がそう言うと、玲は声を上げて笑った。
「もう、化けて出てるじゃないですか♪」
 それもそうだ。
 俺と玲は、声を上げて笑った。
 思えば、その時が初めて、俺達兄弟が心の底から笑い合えた瞬間だった。
 もし、俺があの時死ななければ、俺はこうして玲という兄弟に会う事もなかったし、こうして笑い合う事もなかっただろう…。
 これが、俺達兄弟の、最初で最後の語り合いになるだろう。
 笑いながら、俺は少し泣いた。
 涙が出たのは、笑いすぎて涙腺が緩んだせいだ。
 でも、本当は………。
 玲との語り合いは、そんなに長くは続けられなかった。
 急に視界がボヤけ、玲の声が遠くなる。
「…そろそろ時間みたいだ。玲………ウララをよろくし頼む………」
 玲の姿が鏡から消える瞬間、消えるような声で、「はい」という玲の声が、確かに俺の耳に届いた。
 そして、何もかも白く消え、気がつくと、俺は入ってきた筈のビルの前にポツンと立っていた。
「おかえりなさいませ」
 タクシー・ドライバーが、そんな俺に声をかける。 「俺を、あの丘へ連れて行ってくれないか?」
 俺がタクシー・ドライーバーにそう言うと、彼は「かしこまりました」と、車を走らせた。
 車は、音もなく走り出した…。
 

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