雪に消えたクリスマス
12月24日、午後11時30分。
 雪が、降っていた…。
 息が、白かった…。
 かじかむ手が、微かに震えていた…。
 離れた唇だけが、あなたの温もりを教えてくれた…。
 でも、降りしきる雪は、そんなあなたの僅かな証さえも、私から奪い去って行く…。
 何もかも、白く消された景色の中で、最後に聞こえた、あなたの言葉…。
 それさえも、今は白い雪に覆われて行く…。
 あなたが残していったモノは、白い吐息と、土に汚れたワインボトルと、そして…。
 そして、幻のようなホンのひとときの、淡い思い出だけだ。
 泣いた…涙が枯れるのではと思えるぐらい泣いた…。
 冷たい雪が、涙を撫でて私の頬を腫らす。
 ブスな私の顔が、余計にブスになった…。
 それでも、涙は後から後から、止まる事を知らずに溢れ出してくる。
 私は内心、もの凄く、怒っていた。
 創真は、またしても私の前から姿を消したのだ。 
 これが、怒らずにいられようか…?
 言いたい事だけ言って、やりたい事だけやって、また、勝手にいなくなった創真…。
 そんな創真を、いつまでも怒っていれば、泣かなくても済むと思っていたのに…。
 どうして、涙が止まらないの…?
 どれだけ時間が流れたのか?私には分からない…。 
 降りしきる雪は、進んでいる時間さえも凍り付かすようで、私の体内時計は狂ってしまっていたから…。
 気がつくと、いつの間に来たのか、玲が、私の隣りにいた…。
 自分のコートで、私に雪がかからないように、黙って私の隣りに立っていた…。
「…いつから…そこにいたの?」
 私が、玲に声をかけると、玲はニッコリと私に微笑みかけてくれた。
「…そうですねぇ…よく覚えていませんが…かれこれ三時間くらいこうしているでしょうか?」
 創真と同じ顔を持つ、創真とはまったく別人の玲…。
 玲は、自分に積もった雪を振り払うと、悴む私の手を、そっと握ってくれた。 
 私のために雪を遮ってくれていたのに、玲の手は温かかった。
「風邪、ひきますよ…」
 玲はそう言って、私に自分の着ていたコートをかけてくれる。
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