雪に消えたクリスマス
「ウララ、彼、名前聞いてるわよ♪ここは、答えておくのが礼儀じゃないの?」
 彼女の隣りに座っていた、頭の悪そうな女が、彼女にそう耳打ちしている。
 こんな時ばかりは、バカな女も役に立つ。
「水浪 麗です」
 彼女は俺に愛想笑いを浮かべて、会釈する。
 あからさまな警戒心に、俺は、思わず苦笑いをした。
 そのままにしておくと、いきなり会話が止まってしまう。
 俺は、脳細胞をフルに活用して、次の会話の糸口を探す。
 約、0.2秒の思考のすえ、俺の口から出た言葉は、意外に普通の切り口だった。
「レイ…?でも隣りの娘が『ウララ』って…」 俺の質問に、レイと名乗った彼女は、近くにあった紙とボールペンで、自分の名前を書く。
「麗っていう私の名前、訓読みで麗らかって読むでしょ?だから、そう呼ばれるんです…」 彼女…ウララは、小さなため息をつくと、まだ満たしきっていない自分のグラスに、残りのウーロン茶を注いだ。
「俺も、ウララちゃんって呼んでいいかな?」 俺がそう言うと、ウララは横目で俺の方を見て、「どうぞ…」と一言だけ言うと、注いだウーロン茶を飲みだした。
 さすがに、取っつきにくい。
 ウララの回りに、男共が寄りついていないわけだ…。
 しかし、逆に俺には、そんなウララが新鮮に思えたし、凄く興味も沸いた。
 それに、表面上の事にしか興味がないバカな男共(女共も)は、気づいていないようだが、ウララはかなりの美人になる可能がのある娘だった。
 意識的にか、無意識なのかは分からなかったが、今日のウララの服装は、あまりにも目立たない…悪く言えば、ダサい格好をしている。
 アクセサリーもなし、化粧にしても、しているんだしていないんだか分からない程だ。
 
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