雪に消えたクリスマス
「アンタは………」 
 それは、空港で俺に声をかけてきたタクシ・ドライバーだった。
 気がつけば、そいつが乗っているタクシーは左ハンドルだった。
 アメリカなどのタクシーで、俗に言うイエローキャブというヤツだ。
 いくらタクシー戦線が激化した今日と言っても、町中でイエローキャブでは、乗る人も怖がって近づくまい…。
 もっとも、面白がって乗る人間もいるかもしれないが、俺ならごめんである。
「よくあいますねぇ。どうです?乗っていきませんか?」
 俺は唖然としてしまった。
 確か、視力が6.0あると言っていたから、返って近くの物が見えないのかもしれないが、俺はバイクに乗っているのだ、今更タクシーなど乗る筈がない。
 俺は、冷たい目で、そのタクシー・ドライバーに向かって、指だけ動かして、バイクに乗っている事を告げる。
 それを見ると、タクシー・ドライバーは愛想笑いだけ浮かべて、もの凄いスピードで走り出した。
 いつの間にか、信号が青に変わっていたのだ。
 …それにしても、妙なタクシー・ドライバーだ。
 俺は小首を傾げたが、自分も先を急ぐため、バイクを走らせる事にした。
 約30分後。
 俺は、ようやく大学の正門の前に着いた。
 バイクを駐輪場に止め、慣れた足取りで、大学の事務室へ足を運ばせる。
 さすがに、キャンパスには生徒の姿はない。
 この寒空の中、皆、暖房のきいた室内で談笑でもしているのだろう…。
 俺のその予測は的中していた。
 
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