雪に消えたクリスマス
俺は、この地方では珍しく、12月に初雪が降った12月8日、故郷のこの地に帰ってきた。
飛行機の中から見るこの場所は、いつもと変わらない様子で、グレーのコンクリートの道が、寒い冬の気温を、より一層下げているかのようだった。
空港の税関を出ると、降り出した雪が、着ている皮のコートに張り付く。
コートに張り付くと、雪は簡単に水になって溶けた。
水分を大量に含む、不完全な雪。
それでも、この地方で、この時期に雪が降るのは凄く珍しいことだった。
息を吐くと、白く曇って空へと昇って行く。 空港に、出迎えの人影はない。
出迎えがないのは当たり前だ。
俺が、誰にも帰って来たことを教えていないからだ。
雪が降るのが珍しいと言っても、別に冬が寒くないわけではない。
俺が一人凍えていると、タクシーの運転手に声をかけられた。
「アンちゃん、乗ってくかい?」
この寒空だ、空港の表通りに出れば、タクシーを必要としている人は幾人も見つかるだろうに…まったく、酔狂なタクシードライバーだ。
「こんなに寒いんだからさぁ、乗っていきなよぉ…創真さん♪」
俺は、思わずギクッとした。
秋月 創真…それが俺の名前だった。
「なんで、俺の名前を知っているんだ?」
思わず立ち止まり、タクシーの運転手に向かって睨みかける。
「…だって、あんたの首からぶら下がってるのに書いてあるじゃない?」
タクシーの運転手は、そう言うと、俺の胸元を指差す。
それは、一時期はやった、自分用のIDプレートのペンダント・トップだった。