雪に消えたクリスマス
 いつの間にか、ウララの退社時間が迫ってきた。
 俺は、バイクを銀行の前の路肩に停め、ウララを待つ。
「そうまぁ~!待ったぁ?」
 しばらくすると、少々オットリとしたウララの元気な声が、俺の鼓膜を心地よく震わせる。
「おぅ!待ったゼぃ!」
 俺は、いつものように悪態をつきながら、ウララの頭を優しく撫でてやる。
「…今日は、ちょっと行きたい所があるから、ついてきてくれないか?」
 俺は、ウララを促して、バイクに跨った。
 ウララは、勿論車だったが、俺の後をしっかりとついてくる。
 いくつかの交差点を曲がり、凍ったアスファルトの上を走り抜ける…。
 そして、着いたのは、小高い山の中腹だった。
「………ここって…」
 ウララは、車を近くの路上に停め、白い息を吐きながら俺に近づいてくる。
 ここは、ちょっとした穴場だった。
 穴場と言っても、人が少ないという意味ではない。
 春から秋にかけて、ここはカップル達の集う場所になる。
 少し奥に入ってゆくと、大きな一枚岩が崖から突き出すように聳えていて、そこからは綺麗な夜景が一望できる。
 勿論、岩は夜景を見るように作られたわけではないから、大人が二人も座れば、少し怖いくらい不安定な場所だ。
 だが、それが人気の秘密である。
 少し下った所に、ちゃんと展望台が設置してあるのだが、そこでは恋人達が二人っきりになることは、まずできない。
 
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