雪に消えたクリスマス
 しかしここなら、運良く先客がいなければ、二人っきりの時間が満喫できるというわけだ。
 しかも、そこから見える夜景は、展望台から見える夜景より数段素晴らしい。
 危ないので、本には紹介されていない場所だが、一部では結構知られた名所である。
 それ故に穴場というわけだ。
 しかし、そんな恋人達も、さすがに冬は寒いのか、ほとんどその姿を見ることはない。 
 そして、確かに、人気がないことが頷ける程、この場所の空気は寒かった…。
 白い息を吐きながら、足場の悪い岩場を歩いて、大きく突き出た岩の上に登る。
 すると、急に視界が開け、瞳いっぱいの夜景が姿を現す。
 こういうのを、宝石箱をひっくり返したような…というのだろうか?
 ビルの明かりや街灯、車のヘッド・ライトにテール・ランプ…それらが複雑に絡み合って、一枚の絵となっている。
 俺は、ウララを背中から抱きかかえるような格好で、岩の上に腰を下ろした。
「………綺麗」
 それ以上の言葉は、俺にもウララにも見つからなかった。
 二人は、しばらくその美しい絵画に見とれていた…。
「…なんで………」
 頭を、コツンと俺の胸に押し当て、絞り出すような声で、ウララは言った。
 白い吐息が、空に吸い込まれてゆく…。
 僅かに濡れた瞳が、街の灯りを反射して、キラキラと光る。
 ウララは、小さく頭を振った。
 ウララが何を言いたかったのか、俺には分からない。
 ただ、この時間が、実は幻なんじゃないだろうかという不安が、二人にあった事は確かだった。
 
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