雪に消えたクリスマス
………キィッ。
　俺は、おそらく桜であろう、大樹の脇に愛車を停めて、周囲をグルッと見渡す。
　針葉樹の林が、雪やら霜やらをかぶって、まるで粉砂糖をふったかのように見える。
「ふぅ………」
　ため息をつくと、それさえも、白く凍り付きそうな寒さだ。
　俺は、宛てもなく、ただ、丘の回りを歩き出した。
　こうしていると気分が安らぐのはどうしてだろう？
「やぁ………精が出ますなぁ…」
　どれくらいそうしていただろう？ふと気付くと、黄色いタクシーに乗った男が、俺に話しかけてきた。
　間違いない。例の、空港であったタクシー・ドライバーだ。
「何か探し物ですか？なんだっら、手伝いましょうか？」
　タクシー・ドライバーは、愛想よくニコニコと笑いながら、車の中から窓だけ開けて、俺にそう語りかける。
「いや…別に何かを探しているわけではないし…ただ、ここら辺を散歩していただけだから…」　
　俺は、少し面倒臭いなと思いつつ、一応、タクシードライバーに返事をする。
　それにしても、本当に神出鬼没の妙なタクシー・ドライバーだ。
　こんな人気のないところに来るとは…このタクシー・ドライバー…さてはサボリか？
　俺の疑惑の視線を、知ってか知らずか、タクシー・ドライバーは相変わらず、ニコニコと笑顔を絶やさない。
　俗に言う、営業スマイルというのだろうが、この寒さの中でも表情が変わらないとは…きっと笑顔が張り付いているんだろうな。
「へぇ…こんな寒い日に、こんな寂しい場所をお散歩ですか？貴方も中々、変わっていらっしゃる」
　
< 44 / 121 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop