雪に消えたクリスマス
 そう言うと、タクシー・ドライバーは、窓の外に向けて、ハァーッと白い息を吐いた。
 俺は、こいつにだけは「変わり者」など言われたくないと心の中で思ったが、声にだすのは控えた。
「………あ、ところで………」
 タクシー・ドライバーが何かを言いかけようとした。
「タクシーなら、俺には必要ないぞ?」
 俺は、いち早くタクシードライバーの次のセリフを予想して、先手を打つ。
「……………ですよね…………ふぅ………まだ、何も言ってなかったのに………」  
 タクシー・ドライバーは、小声でそう言うと、張り付いた笑顔のままでむくれた顔をする。
「ところで………いいんですか?」
 ひとしきりむくれた後、タクシードライバーは不意に話題を変えた。
「なにが?」
 勿論、突然「いいのか?」と話題をふられても、俺には答えようがない。
 少々間抜けにも思えたが、俺は一応、タクシー・ドライバーに問い返す。
「………時間ですよ………そろそろ5時になりますが………」
「!!!」
 俺は思わず絶句した。
 少々この丘に立ち寄るつもりが、いつのまにか数時間が過ぎていたらしい…。
「その様子では、お急ぎになった方がよろしいようですね?………どうですか………」
「タクシーなら乗らないからな。俺には愛車がある」
 またもや俺に先手を打たれ、言葉を無くすタクシー・ドライバー。
 俺は、そんなタクシー・ドライバーを後目に、自分の愛車の置いてある場所へと走った。
 
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