雪に消えたクリスマス
 もうすぐ、麗の退勤時間だ。
 バイクに跨り、エンジンを始動させる。
 バイクは小気味良い唸り声を上げて、排気ガスを吹き出し始める。
「それじゃ…縁があったらまたな!」
 俺が、最後にタクシー・ドライバーにそう叫んだ時、そこには、もうタクシー・ドライバーの姿はなかった。
 俺は少しだけ肩をすくめたが、タクシーも客商売だ。いつまでも、油を売ってばかりはいられないのだろうと勝手に理解して、バイクのアクセル・グリップを捻った。
 今から急げば、約束の時間までは充分に間に合うだろう。
 俺は、心の中でちょとだけ、さっきのタクシー・ドライバーに感謝しながら、一気に丘を下っていった。

 創真が丘を後にした数分後、黄色いタクシーが、大きな桜の木の下で止まっていた。
「縁があったら………ですか?フフ………必ずまたお会いすることができますよ………必ず………ね」

 
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