雪に消えたクリスマス
 目的地は、例の巨大な一本桜がある丘だ。 
 あの日以来、あの場所へはよく行く。
 ウララに会う日も、午前中など、あの場所へ行って暇を潰すのだ。
 あの場所へ行くと、なんだか頭がスッキリする…なんとなく落ち着く感じがするのだ。
 街の着飾った風景もいいが、俺は、どこかもの悲しさがある、あの場所が好きだった。 
 別に、何をするというわけではないが、あの場所から街を眺めたり、林の中を散策していると、何か、忘れていたものがよみがえってくるような、そんな晴れやかな気分になるのだ。
 いつものように、バイクを巨木の脇に停め、街を見下ろす。
 すると、次第にモヤモヤとしていた頭の中がスッキリとしてくる。
 俺は「ふぅ~」とため息をついて、上着のポケットの中に、悴んだ手をつっこむ。
 すると指に、カサッと、紙のような物が当たる感触がした。
 俺は、ポケットの中からそれをつまみ出す。
「…これはぁ………」
 それは、手紙だった。
 葉子からウララに渡すようにと、預かった手紙だ。
 今の今まで、この手紙の事をすっかり忘れていた。
 …やっぱり、これはウララに渡しておいた方がいいのだろうか?
 俺は、そんな事を考えながら、手紙を空に向け、中身を透かしてみようと努力するが、勿論、そんな事で中身が透けて見える事はない…。
 俺が、再び手紙を懐に入れよとした時、不意に、手紙の中身が、封筒から抜け落ちる。
 
< 53 / 121 >

この作品をシェア

pagetop