雪に消えたクリスマス
 白い吐息が、視界を塞ぐ。
 俺の行く手を阻むかのような吹雪が、肌を切りつける。
 もう、アクセル・グリップを握る手に、感覚がない…。
 その時、俺の視界に、何か小さなモノが映った。
 キ、キィーッ!!
俺は、慌てて急ブレーキを踏んだ。
 俺の視界に映ったモノは、小さな猫だった。
 猫は、バイクのブレーキ音に驚いた様子で、道の真ん中で、こちらをジッと見据えている…いや、こういうのを、腰を抜かしているというのだろうか? 
 よく車道で、引かれて死んでいる猫や小動物の死骸を目にする事があるが、きっとこういう状況下で、立ち止まったりするから逃げ遅れてしまうのだろう。
 俺が、バイクのクラクションを鳴らすと、猫は呪縛が解けたかのように、ピクッと身を震わせて、その場より立ち去った…。
 俺は、「ふぅ」とため息をつき、急ブレーキをかけて、バイクごと横転しなくて良かった…などと考えながら、逃げ去った猫の後ろ姿をしばらく眺めていた。
「転ばなくて、なによりだね♪」
 突然耳元でした声に、俺は驚かなかった。
「…また、アンタか………?」
 俺は、声の方を振り向こうとは思わなかった。
 それは、聞き慣れた声だったからだ。
「また、私です♪」
 その声は、空港で話しかけてきた、奇妙なタクシー・ドライバー…。
 世間は狭いと言うが、本当だ…同じタクシー・ドライバーに三度も会うなんて事は、滅多にある事じゃない。
 
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