雪に消えたクリスマス
 ここまで来ると、単なる偶然ではないんじゃないかと疑いたくなる。
「どうでもいいけど、アンタも暇な人だな~、俺はこの通りバイクだから、タクシーなんて乗らないし、今は先を急ぐから、アンタなんかにかまってる暇なんてないんだけど…」
 ふと信号機に目をやると、信号の色は赤だった。
 俺は、「チッ」と舌打ちをした後で、言いようもない脱力感にさいなまれた。
「まぁ、そんなに毛嫌いしないでくださいよ。この寒空の中、バイクで走っているような人がそんなにいるわけじゃありません。ですから、見かけるとつい、声をかけたくなるんです…ごめんなさいねぇ♪」
 言葉では謝っているが、口調が全然謝っていない。
「何?じゃ、バイクを見たらつけ回しているのか?まるでストーカーだな…」 
俺が悪態をついても、タクシー・ドライバーは動じる様子も見せなかった。
 きっと職業柄、悪態をつかれるにはなれているのだろう…。
「いえいえ、誰でもってわけじゃありませんよ♪気になる人だけです…♪それに…」
 軽快かつ、リズミカルな口調で、サラっととんでもない事を言うタクシー・ドライバー…それじゃ、ますますストーカーだって…。「?…それに?」
 俺は、心の中のツッコミをいったん別の場所に置いといて、タクシー・ドライバーの言った、気になる言葉尻に目を向ける事にした。
「…いや、何ねぇ。こういう商売やってると、その人の顔見るだけで、だいたい分かるんですよ…何か悩みがあるんじゃないかって…創真さん、何か相談したい事があるんじゃないですか?」
 俺は、鋭利な刃物で胸を刺されたような衝撃を受けた。
 人の心を見透かしたかのような、今の発言…こいつはいったい…?
「相談事なんて…ない。例えあったとしても、何で見ず知らずのアンタなんかに話さなくちゃいけないんだ?俺は先を急ぐんだよ!」
 
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