雪に消えたクリスマス
一回目…エンジンは、ウンともスンともいわない。
 二回目も同様…。
 この、キック・スターターでエンジンをかけるには、ちょっとしたコツがいる。
 エンジンの一つ一つには、人間と同じように性格があって、素直なモノとそうでないものがある。
 俺の愛車のエンジンは、一筋縄ではいかない…そう俺のように…。
 ましてや、二年近く放っておいたんだ、ヘソぐらい、曲げたくもなるのだろう。
 俺は、「3度目の正直!」と、思いっきりキックを踏み込んだ。
 ヴヴヴゥン!!
 大きなうねりをあげて、エンジンがかかる。
「やった!」
 俺は、思わずそう叫んだ。
 マフラーからは、二年近くたまった埃臭い排気ガスが吹き出す。
 俺は、アクセルでアイドリング調節を行い、たまっていた埃を、マフラーの中から全部吐き出させる。
 数分経つと、エンジン回転も安定し、いつでも、出発できる用意が調った。
 俺は、愛車に跨り、スピードメーターの液晶画面を覗く。
 表示は、全て0000になっていた。
 バッテリーは、一ヶ月放っておくだけでもあがってしまう…ましてや、二年間近く放っておいたら、こうなるのはしかたない。
 俺は、液晶画面に表示されている時間を、現在の時間に合わせようとしたが、やり方を忘れてしまったことに気づき、時刻合わせを断念した。
 俺は、小さくため息をつくと、愛車のスタンドをたたみ、アクセル・グリップを捻り、凍り付くようなアスファルトの道路の上を走り始めた。
 
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