雪に消えたクリスマス
 俺が、そう怒鳴りつけると、タクシー・ドライバーからは、しばらく返答がなかった。
「…そうですね…すみません。所詮、人は自分自身の手で、答えを見つけるモノなのかもしれませんね…しかし、これだけは覚えておいてください…。目の前にある真実は、それが遠くにあって、求めている時には確かに真実ですが、手に取ってみると、実は違っている…と、云う事もあるんですよ」
 その言葉は、タクシー・ドライバーが今まで言った言葉の中で、一番厳かな口調のように思えた。
 空気が、ピーンと張り詰めるような、そんな言葉の響き…。
「アンタの言っている事は、なんだか支離滅裂で、わけがわからん…とにかく、俺は先を急ぐんだ!」
 俺は、素直な感想を述べると、再び信号機に目をやった。
 まだ、赤だ…。
 いや、もしかすると、もう何度も信号の色は変わっていたのかもしれない…。
「…そうですね。ま、もし何かありましたら、いつでも私を呼んでください…名紙渡しておきますから…」
 そう言うと、タクシー・ドライバーは、俺の目の前に名紙を差し出す。
 その名紙には、何も書いていなかった。
「なんだよ?これ?」
 俺が思わず叫ぶと同時に、丁度、信号が赤から青へと変わったのが見えた。
 次の瞬間…。
 俺が、ほんの一瞬の間、信号機に目を奪われた瞬間、そこに今までいた筈のタクシー・ドライバーの姿は、溶けた雪のように、消えてなくなっていた。
 俺は一瞬、今のは白昼夢でも見ていたのかと、自分を疑ったが、それは、手にしている白紙の名紙によって否定された。
 
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