雪に消えたクリスマス
 もしかして、この名紙…炙り出し…?
 俺は、小首を傾げながら、その何も書かれていない名紙を、胸のポケットにしまい込んだ…。
再びバイクを走らせると、とたんに凍った風が俺に襲いかかる。
 俺が街に戻った頃には、時計の針はとうに正午を回っていた…。
 俺は、いつものように道路脇にバイクを駐車すると、ウララが勤めている銀行の中に入って行く。
 店内には、相変わらず客の数が少ない。
 俺は、さして広くもない店内をぐるりと見渡したが、ウララの姿はどこにもなかった…。
 俺は、丁度お昼時だし、昼食休憩でもとっているのかとも思ったが、取り敢えず近くの窓口で、ウララの居場所を聞いてみる事にした。
「…すみません」
 俺が声をかけたのは、暇そうな銀行の窓口でも、特に暇そうにしていた、若い女の従業員の窓口だった。
 従業員は、大きなアクビを一つして、眠たい目を擦っている。
 顔に、まだ幼さを残す可愛らしい従業員で、何が気になるのか、しきりに前髪をいじくっては、何度も息を吹きかけている。
 ちなみに、この時この窓口の女従業員は、完全に俺の事を無視していた。
 いや、無視というよりは、俺の事に気づいていないというのが本当の所かもしれない。
「あの…すみません…」
 俺はもう一度、相変わらず前髪の手入れをしている女従業員に話しかける。
 ………無視。
 いや、ひょっとしたら、この女従業員は難聴なのかもしれない。
 
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