雪に消えたクリスマス
「ふぅ~」
 俺は、大きなため息をつき、近くのベンチに腰を下ろして、空を仰いだ。
 息を吐き出すと、目の前が真っ白になり、それもやがて消える。
 上を向いているせいか、白い息が、フィルターのように俺の視界を覆う。
 白い息越しに見る街は、まるで蜃気楼のようにボヤけていて、街を彩るイルミネーションは、灰色の天気も手伝って、昼間だというのにキラキラと光り輝いている。
 …ウララが早退するなんて話、俺は聞かされていなかった。
 もしかしたら、急に気分でも悪くなったとか…?
 そう思えれば、俺の心も少しは軽くなれたかもしれない。
しかし、俺の心の中の暗雲は、そんなに単純には晴れてはくれなかった…。
 体が、少しだるい…。
 やはり、こんな寒空の中を歩き回ったのがいけなかったのか…?
 あの、女従業員と話をした時くらいから、特にひどくなっている気がする。
 まったく、何もかもついてない…。
 俺は、もう一度ため息を吐き、やたら無意味に華やかな光を放つ、街のイルミネーションを見ていた。
 不意に、犬の散歩中の老人が、俺の座っているベンチに腰を下ろす。
 俺は、「ここには、他にベンチはいくつもあるというのに…」なんて思いながら、老人の連れている犬を眺めていると、その犬は、俺を睨み付けて吠えた。
 主人の老人が、俺に向かって吠えている犬を諫めると、犬は、シブシブといった感じで、吠えるのを止めた。
 老人は、しばらく俺の隣りで休んだ後、また犬の散歩に戻った。
 その間、俺も老人も、一言の挨拶も交わすことはなかった。
 よく、「最近の若いモンは挨拶もせん」などと言われるご時世だが、それは、何も若い者に限られた事ではないらしい…。
 ま、核家族化が進む現代で、他人との関わり合いなど、興味のない事なのかもしれない。
 
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