雪に消えたクリスマス
俺は、そんな事を考えながら、小さくなっていく老人と犬の後ろ姿を眺めていた。
 その、老人と犬とが、丁度視界から消えそうなくらい小さくなった時だった。
 俺の目の端っこに、小さく女の姿が映った。
 俺はそれを見逃さなかった。
 青色のタートルネックに、ココア色のロングのカシミヤ・コート、首にはバーバリーのマフラーを巻いているその女は、見間違える筈もない…。
 ウララだ!
 俺は、思わず大声でウララの名前を呼ぼうとした。
 しかし、俺はそこでウララに声をかけるのをためらった。
 ウララは一人ではなかったからだ。
 ウララと並んで歩いていたのは、萩 葉子だった。
 二人は歩きながら、何やら話をした後、丁度俺と真向かいの交差点で「じゃぁ」と手を振りながら別れた。
 葉子は、タクシーをひろい、すぐその場から離れたが、ウララはしばらく、そのまま葉子と別れた交差点に立って、去っていく葉子を見送っていた。
 その間、ウララがこちらに気づいた気配はまったくない。
 ウララは、葉子の姿が完全に消えると、小さなため息をついて、人が行き交う商店街の中を歩き出した。
 俺は、自分の胸を撫で下ろした。
 それと同時に、疑い深い自分を恥じた。
 もしかしたら、葉子のヤツ、俺を心配させるために、わざとあんな手紙を俺に渡したのかもしれない。
 そう考えれば、手紙の糊付けが甘かったのも合点がいく。
 それをネタに、今日はウララと談笑していたのだろう。
 
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