雪に消えたクリスマス
そうと分かると、なんだか急にバカバカしくなってきて、それはやがて、小さな怒りにも似た感情に変わっていった。
 俺が、あんなにも悩んだのはなんだったんだ?
 この寒い中バイクで走って、ウララを探すために街中を駆けずり回って…風邪はひきそうになるし、犬には吠えられるし…。
 と、その時、俺の頭に名案がひらめいた。 
只、俺一人が笑い者にされているというのは、どうも許せない…そうだ、今日一日のウララの行動を影でコッソリ追跡しよう。
 そして、ウララに会った時に言ってやるんだ、「19日、葉子と会っていただろう?その後、何々しただろう…?」ってね。 
 俺は、意地悪く、ニヤッと含み笑いをしながら、こちらには全然気づかないで俺の前を歩いているウララの後をつけていった。
 ウララは商店街を抜け、小走りで細い路地を幾つか曲がる。
 すると、少し古めかしい木造の喫茶店が姿を現し、ウララはその中へと入って行く。
 俺は、どうしようか迷ったが、少し遅れて、店内に入る事にした。
 キィィと、重たくて立派な樫の扉を手で押すと、薄暗い店内に足を踏み入れる。
 扉の奥にはレジがあって、そこのウィンドーには、色とりどりのケーキが並べられていて、いかにもウララの好きそうなお店だった。
 レジにはメイド服姿のウェイトレスがいたが、こちらは伝票でも見ているのか、俺が入ってきた事には全く気づかなかった様子だ。
 店内は意外に広く、中央にはピアノが置いてある。
 そのピアノは、自動演奏でベートーヴェンの『月光』を奏でている。
 しかし、この位置では、ウララの姿を見つける事はできなかった。
 しかし、このままここに突っ立っていては返って妖しい…俺は、更に奥の方の席へと足を運ばして行く。
 目だけは、ウララを探しながら、ゆっくりと音を立てないように…この喫茶店は、床も木造なので、ちょっと歩くだけでも靴音が響く。
 ピアノの音響効果は抜群だが、こうやって忍んでいる時には都合が悪い。
 それでも、何とか足音を立てる事なく、店内が見渡せる一番奥の席に腰を下ろす事ができた。
 薄暗い店内に、時々コツ、コツ、コツという、ウェイトレスの歩き回る音が響く。
 ウララは………?
 俺は目を凝らしながら、薄暗い店内を見渡す。
 数回、俺は首を左右に捻り、そして、止まった…。
 
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