雪に消えたクリスマス
 十数年の時を経て、いくらばかりかその恐怖心は薄らいだと言うが、それでも年輩の男性に髪の毛の一筋でも触られようものなら、途端に拒否反応が出るという重傷だ。
 そんなトラウマを抱えているウララが、年上の玲と交際する事は考えにくい…。
「失礼かもしれないけど、玲………さんはウララ…コイツとはどういう関係で…?」
 そこまで考えて、俺の口から出た言葉は、あまりにも単純な質問だった。
 頭の中でゴチャゴチャと考えていても答えは出ない、俺は玲本人に直接聞いてみる事が一番手っ取り早い方法だと悟ったのだ。
「僕と麗…ちゃんの『関係』…ですか?」
 俺の突然の脈絡のない質問に、一瞬、玲の顔が少し間の抜けた顔になる。
 そんな玲の顔つきも、確かに、俺とよく似ているかもしれない。
 こいつが、本当に俺の兄弟の春日部 玲だと云う事は、なんとなく直感でわかった。
 言葉では上手く説明できないが、俺の体内のDNAがそう告げるのだ。
「…関係と言われても………あ、ウェイトレスさん、ここにお水と…そうだな、モカを持ってきてもらえますか?」
 玲は、お茶を濁すかのように、今横を通りかかったウェイトレスに声をかける。
「え?あ…はい…。えぇと、コーヒーのモカと、あとお水ですね…少々お待ち下さい…」 ウェイトレスは、少し変な顔をしたが、玲がニッコリと笑顔を見せると、お辞儀をして厨房の方へ消えていった。
 気がつくと、俺の前には水も出ていなかった。
 俺としては、別にそんな事はどうでも良かったのだが、玲のそんな細かな心配りに、少し感服した。
 しばらくすると、先ほどのウェイトレスが水とモカ・コーヒーを俺の目の前に置いて去って行く。
< 69 / 121 >

この作品をシェア

pagetop