雪に消えたクリスマス
走り出すと、とたんに、凍った風が俺の体を切りつける。
 レザー・コートを着ていると言っても、手袋も何もしていないのだ…おまけに、少々くたびれたコートの隙間から、風が入り込む。
「こんなことなら、さっきのタクシーに乗せてもらえばよかったかな?」
 俺は、一瞬そんな事を考えたが、この寒空に、俺の愛車をあんな墓場のような所にいつまでも置いておく事なんてできないな…と考えを改めた。
 しかし…寒い………。
 俺は、愛車のバッテリー充電のため、ちょっと遠回りして、自宅に帰る事にした。
 ま、どうせ帰っても、誰もいない家だからな…。
 親父と母親は、一年前に飛行機事故で死んだ。
 夫婦揃って海外旅行へ行くというのが、親父達の小さな夢だったが、その初めての海外旅行で事故に遭うとは…本当に運がない。
 飛行機は空中で木っ端微塵…燃料パイプの欠陥だったらしい。
 マスコミやその遺族が、航空会社とずいぶんやりあってたらしいが、裁判で勝っても、親父と母親が戻るわけでもなし…木っ端微塵ということで、遺体は残っていなかったが、苦しまずに死ねたのが、せめてもの救いか…。
 もともと、危険、危険と言われていた航空会社で、今はやりの激安チケットなどを販売して客を引くというセコイ航空会社だった…親父達も、なんでよりによってあんな航空会社を選んだのか…別に、金が惜しかったわけでもあるまいし…。
 親父達の死によって多額の保険金がおりた…そのおかげで俺は今日まで生きてこられたわけだから、あながち文句を言える立場ではないのかもしれないが…。
 今度の勝訴で、また更に親父達に対して慰霊金がおりることだろう…それは、親父達の血族で均等に配分するのかな…?
 俺には、もう、必要のないモノだからな…。
 降りしきる重たい雪のせいか、少し感傷的になったようだ。
 
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