雪に消えたクリスマス
12月20日。
 鉛色の重たい雲が、ゆっくりと空を動いていた。
 そこから、白い雪が降ってくる。
 今年は、本当に雪の多い年だ。
 気がつくと、俺は例の巨大な桜の木がある丘の所に来ていた。
 どこを見渡しても、俺のバイクは見あたらない。
 ここまでどうやって来たのか、俺にも見当がつかなかった。
 丘からは、街が一望できた。
 俺が、生まれ育った…街。
 あの道も、高くそびえるビルも、行き交う人も…二年前と、何も変わっていない…。
 変わっていない…筈だった………。
 この丘に来ると、不思議と気分が良くなる。
 ここには一度も来た事がなかった筈なのに、ふと、『懐かしい』なんて気分になる。
 たぶん、俺は前にもこの丘に来た事があるのだろう。
 それがいつなのか?今は思い出せないが、それはその内わかる…そんな妙な確信が俺にはあった。
 昨日、泣き崩れたウララを抱き上げて、ウララの家まで運んだ。
 その後の記憶は曖昧だ。
 只、雪が強く降っていた事だけは覚えている。
 俺の頭の中は、霧がかかったように、なんだかボヤけていた。
 俺は悴む手をポケットの中に入れ、ふぅと白い息を吐き出す。
 カサッ。
 すると、手に何かが当たる感触があった。
 気になって、ポケットの中から取り出してみると、それは四角い名紙だった。
 あの、タクシー・ドライバーにもらった名紙だ。
「必要な時はいつでも…か…」
 
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