雪に消えたクリスマス
 俺は白紙の名紙を、悪戯心、少し手で擦ってみる。
 炙り出しの名紙なら、これでうっすらと文字が浮かんでくるところだが、やはり、白紙の名紙は、白紙のまま、なんの変化もなかった。
 俺は、自虐的に小さな笑いを一つして、その白紙の名紙をポケットの中に戻した。
「………お呼びで?」
 不意に、耳元でする声。
 しかし、俺はその声に驚く事はなかった。
 なんとなく、声がする事が分かっていた気がしていたからだ。
 俺が振り向くと、例のタクシー・ドライバーが、小さく笑みを浮かべて立っていた。
「………あぁ、呼んださ」
 タクシー・ドライバーは、俺の言葉を聞くと、満足げに笑い、俺をイエローキャブの後部座席に乗るように勧める。
 今度ばかりは、素直にタクシーに乗り込む俺。
 俺がタクシーの後部座席に乗り、ドアが閉まると同時に、タクシーは音もなく進み出した。
「…アンタ、何者なんだ………?」
 その質問に、タクシー・ドライバーは答えなかった。
 俺も、質問した後で、この質問がいかに愚問であるかを悟ったので、タクシー・ドライバーが答えない事については、特に腹は立たなかった。
「創真さんは、最近、体調が悪い…なんてことありませんか?体がだるかったり頭痛がしたり…」
 
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