雪に消えたクリスマス
 タクシー・ドライバーは、ルーム・ミラー越しに俺に話しかけてきた。
「ん?あぁ…まぁ…。でも、今年の冬は寒いからな。風邪でもひいたんじゃないか?」
 今年は、よく雪が降る。
 俺は、そんな意味合いも含めて、タクシー。ドライバーの質問に適当に答える。
「世界は、二酸化炭素の過剰増加のために慢性的な暖冬です」
「……………」
 タクシー・ドライバーのその意見は、俺の身に起こっているそれらの状況が、単なる風邪とかというモノではないという事を示唆していた。
 別に、俺自身、外気が寒いから風邪をひいたんだ…とは思っていない。
 なぜならば、俺は………。
「体がだるいとか、頭が痛いというのは、兆候なんですよ…」
 ルーム・ミラー越しに、俺もタクシー・ドライバーを見るが、タクシー・ドライバーは帽子を目深にかぶっているので、その顔を伺い知ることはできなかった。
「…もう、あまり時間がないんです」
 タクシー・ドライバーが、そう言った後、車内はしばらく静寂に包まれた。
 全く音のない世界…。
 車のエンジン音も、風を切る音さえも凍り付いたかのように、シンと静まり返った。
「…今、どこに向かっているんだ?」
 タクシーの窓ガラスには、勢いよく去って行く街の景色が映し出されている。
 このタクシーが、どこかに向かって走っている事だけは確かだ。
「………創真さんの、望んでいる場所…ですよ…」
 そして、車内は再び静寂に包まれた
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