セピア
 そして警察からの知らせで花梨の事故を知った泰造は、それぞれの家族の元へ連絡をした。
連絡を受けた家族は各自病院に向かった。

 泰造は受話器を置くと無意識に仏前の前に座り込み、死んだ妻に『李。お願いだ。かわいいわしの孫の花梨を守ってくれ!』と心の中で叫んで手を合わせた。

 それから泰造は急いで家の戸締りをして、そして身仕度を整えた。
そして一応いつものクセで『ガスの元栓良し!』、『窓の鍵閉め良し!』、『たばこの灰皿良し!』と心の中で指差し確認を一つずつして納得をしてから家を後にした。

 花梨が入院している病院は花梨が勤めている出版社の近くだった。
時間的に言っても恐らく通勤途中での事故なのだろう。と泰造は思った。

 家から花梨の勤めている会社迄はおよそ電車で1時間余りである。
だが泰造は居ても立っても居られなくなって、大通りに出るとタクシーを拾い病院へと急いだ。
< 20 / 53 >

この作品をシェア

pagetop