セピア
第5章-大正ロマンの名残
 招き入れられた部屋の中には囲炉裏(いろり)があった。
天井からは細い竹の棒がぶら下がっており、途中に木で作られた魚のモチーフが付いていて、その下には木製の蓋(ふた)を被(かぶ)せた鍋がかけられていてその中からは白い湯気が上がっていた。

「さあさ寒かったでしょう。キリタンポが煮えているのよ。丁度食べ頃だと思うわ。さっコートを脱いで其処に座って頂戴な」
 と言うと李は花梨のツイードのコートをハンガーにかけ部屋の隅に吊るした。

 花梨が部屋全体を見渡すと此処は幼い頃自分が住んでいた秋田県の古い佇(たたず)まいの家ではなくて、むしろもっと古い時代の印象さえ受けた。
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