セピア
 ない物ねだりなのは解っている。が、しかし手に入れられないと思えば思う程に尚更募る思い。
そんなとり止めもない思いに胸を馳(は)せながら花梨が青信号の横断歩道をボーっとしながら渡っていた時だった。突然全身に鈍い痛みが走って花梨の体はポーンと空中に跳(は)ね飛ばされた。つまり花梨は今まさにこの瞬間、斜め向こうの交差点から走って来た信号無視のトラックに轢(ひ)かれてしまったのだ。

「あっ!」
 と思った時には遅かった。

遠のく意識―――。
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