サクラのエリコ
まったくもって不条理な世の中だ。


その辺の大人ぶっているOLよりたくさんの男を知っているし。


親の顔も憶えていない。


結婚はまだだけど普通にノホホンと生きてる女よりずっと色んな経験をしてきた。


なのに16年しか生きていないと言うだけで未成年扱いだ。

見た目も大人っぽいって言われるし、自分の父親ほどの中年オヤジを夢中にさせる能力にも長けている。



大人が大人としての責任を果たしていない世の中で、未成年が大人の代わりをする事のなにが悪いのか。



「あ〜らエリコちゃんすっぴんでどうしたの?」


クリステンのNo2、智花だ。

10歳も年下のエリコ営業成績を一度も抜いたことがない。

シカトして出口への階段を駆け上がろうとするエリコ。
智花はすれ違いざま、鼻で笑いながら言った。


「ガキが調子にのるからよ」


この店で私が未成年だって知ってる、いや知ったのはマネージャーだけのはず。

…こいつがどこからか情報を手に入れてマネージャーにチクったのか。


「あんたがチクったのね」


「何の事お嬢ちゃん?」


そう言うと智花はアハハハと笑った。

普段客の前で見せる甘くて軽い愛想笑いではない。まるでお笑い番組でも見ている時のような下品な笑いだ。


パキッ。


それがエリコの頭の線が切れた音だったか、小さなコブシが智花の顔面にクリティカルヒットした音かどうかは覚えていない。


今日に限って大きめのリングをはめていた右手は簡単に智花の鼻骨を砕いた。
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